文月四日
「いい射なり」黙(もだ)にたゝずむ師のたもふ天地息吹きてそれし四つ矢を
文月七日
青草のにほひむれたつ男子寮笹の葉さらさら短冊赤き
「純粋な恋愛」とある短冊の主にまみえむ七夕郎女
葉をふりて小皿に受けし笹の露硯にまろびて大空すけゆく
文月十一日
十薬の葉影ゆらせしひき蛙とくとく逃げよ鎌ぞうなりぬ
文月二十四日
賜はりし着物の墨色しづまりて褄に波立つ蓬莱の舞
文月二十五日
君ならでいつかはともに越へゆかん森蔭深き大峰の山
文月二十七日
春弥生白雲流れ鳶が舞ふ山門不幸と門前に立つ
文月二十九日
潮騒の遠く近くに重なりて片貝のいたみ渚に埋みぬ
八月の浜辺飛び行く麦わらを捕らへし君はオレンジの色
砂浜に詩人は一人海を見て波を数へり満月の夜
わたつみの海のかなたの空かすみはるけき方を思ほゆるかも
あの嫁は出て行きました去年の春獅子で祝ひし寿の家
(ウッタルカシ讃歌)
ガンガーの逆まく波間の岩に座しまどろみてをりシヴァを夢見て
ふり向けば少女の瞳がほほゑみて赤き実さし出すヒーサと告げて
「ハリ・オーム」宇宙の音を挨拶にウッタルカシの少女に逢ひき
喬木に足かけわたし少年は赤き花つむ空の青より
あそこにもここにも咲ける赤き花つみては昇る空のかなたに
大空ゆポタリポタリと落ちて来るま赤き花は双手にあふる
この花はヴィシュヌに捧げる花なれど最後の一つこは君のため
「こは君に」空より受けし赤き花髪に飾りてアムラかほれり
澄みわたる空色うつす汝が瞳海のかなたに思ほゆるかも