長月三日
鳥海の霧立ちのぼる頂きに仁王立ちせる磐根となりて
山頂に菅笠の人天を突き今ぞ吹きあぐマグマの地熱
雲に乗り天を支へし菅笠の一点貫く君がたまゆら
長月四日
白玉の歯は一列にスチュワーデス深紅の口元笑くぼ刻めり
長月十日
秋風に恋ひしさまさる夕べかな爪をふるひし音の静寂(しじま)を
長月十六日
砂浜に波を数へて目をとじし涙浮かべるシャクンタラー姫
長月十八日
秋の陽に雀遊びし神苑の玉砂利にふる日の丸の影
幾百の年月黙に大公孫樹秋の苑辺に金粉ふらしぬ
長月二十日
虫すだく坂道行く女(ひと)大き歩の下駄音軽し吉野の山里
かなかなと全山ふるはす蝉時雨苔の清水に指は透けゆく
露しとど緑重なる奥山にひそと思惟せる黒金の像