霜月五日
ピョコタンとびっこになったおかげですかうしてそっと腕をからませ
霜月七日
たそがれのさんさき坂をすれ違ふ道説く君の墨染めの風
下町を行交ふ僧侶すこやかに頭たてたり秋の夕暮れ
誰もゐぬ谷中の町のグラウンド夕焼け小焼け夕餉が待ってる
霜月九日
白雲のたゆたふ秋の昼下がりひそと触れみる胸のふくらみ
霜月十八日
金色の光さやけき時雨あと葉末の露は心の目薬
汝が心ふと信じられぬ空洞を秋空に透くもみぢ見上ぐる
池の面に錦秋ゆれる井の頭レッツダンスと男の一群
霜月二十一日~二十二日
蝿ぼぼの手足かじかみしがみつく落葉かすかにゆれてをりけり
鈍色の空たれこめし越の寺すすぎの水に浮かぶ片羽根
ぬばたまの夜をこめ轟く雷神の天地創造ぶりは大漁
ビシャビシャの氷雨はやみぬガラス戸の格子ににじむ錦の綾織り
水たまりひょいと飛び見ゆ天照のプラチナの玉ダイヤの雫
どこまでも『粋の構造』青竹のさやさやさやけ里山砂漠
村人の喉うるほせし山岸の清水(しょうず)は枯れぬ行け行け車