師走二日
恋ばかりしてゐたかった十代の榾かきたつる五十路も半ば
くすぶりし五十路の榾も八十路には紅蓮の炎不動となりて
師走三日
行脚終へみ寺におはす阿修羅様池のみぎはに亀の首のぶ
師走二十五日
山々は白き木綿しで里囲むこの世祓へてかをる梅が香
師走二十八日
君と行く蔵王雪らし新調の真つ赤なウェア夜明けの晩を
ヘアバンドきりりとしめれば軽々とリュックあがれり雪山へ翔ぶ
雪山に上着は緋色ズボンには白を選べり太陽昇る
母体よりこの世に生(あ)れし日の記憶そに包まるるまくれなゐのばら
一年の仕事終え出づ長靴の雪山姿わが句読点
黎明を「つばさ」は走り赤りんごサクッとかじる蜜の多きを
師走三十一日
龍神もひそみ眠るかどつこ沼雪のカーテン霏々とたなびく
人あやむ妍に息吹ける雪世界向かひてをれば口びる甘美