睦月二十四日
(哀悼 塚本武彦氏)
初釜に小ぶりの茶碗の金と銀作は君なりき逝きしこの朝
君が煮て缶に詰めたるおととしの竹の子美味し星流れ落つ
白絹をはらりとのけて畏れつつまみえる眉にひそみありけり
やんちやなる武道家なりきししむらの落ちたる頬に私欲なきなり
涅槃忌に団子作らん五色なる生地を菊練り君は陶芸家
無頼派の君が焼きたる皿・器ほど良くおさまる妻が手料理
炭火はぜ炉端で一献本ししゃも焙りし君はもはや亡きなり
美意識のこわきをのこ添ふならばなどか肥ゆべき肩細き女
語りあふ終の日恵まる幸せをほのかにゑまふ遺骸のかたわら
弔問を受けをる妻の髪乱れ紅のなき顔菩薩に似たり
検診を受けず手術も受けずして尽くる命は潔きかな
いかんせんいつかは必ず尽くるものならば過ごさん天命にまかせ
空手・禅・陶芸・竹の子料理の会はたまた花見君は遊びき
不自由な体におさらば汝が魂を友は待ちけん花見に竹の子
雨晴しの海辺越ゆ見ゆ立山の連峰まばゆき君旅立ちの日
睦月二十九日
朝までの遠き道のりがたごとと南瓜の馬車ゆく眠りの底闇